荒川流域

 この流域は連峰の中でも最も顕著な雪蝕地形を有しており、特に西朝日岳から袖朝日岳にかけての支稜線南東面は峻険を極めた地形で、冬季でも岩肌を見せて一気に谷底へ落ち込んでいる。そのため源流部南東面の沢は夏季でも豊富な雪田、雪渓が残り、遡行をより困難にしている。この南東面には連峰屈指の険谷、毛無沢と西俣沢の上半部の大スラブ帯が岩屏風のように展開し、我々の入渓を拒んでいる。そのため毛無沢、西俣沢の遡行記録は未だほとんどない。本流筋は大帯沢から東俣沢、中俣沢出合まで数十mの側壁の峡間に曲滝、綾滝、大滝の三つの巨瀑と瀞を内包した大ゴルジュが延々と続き、冬季の多量な積雪による激しい雪蝕作用は谷の側壁に草木の占有を許さず、花崗岩の岩肌を削り磨いて奔走する豊富な雪解け水と西俣沢出合に懸かる大スノープリッジは遡行をより困難にしている。

 中俣沢、東俣沢の遡行は、大帯沢から続くこの大ゴルジュ帯の通過がポイントとなる。先人の記録によると、中俣沢、東俣沢は、東俣沢の枝沢であるヒノキモッコ沢を下降ルートとしているが、どちらを遡行するにしても、大帯沢出合から続く本谷大ゴルジュ帯の遡行なくして荒川本谷の遡行は語れない。

 大ゴルジュ帯下流部で興味をひかれるのは、左岸側では大帯沢、大玉沢、角楢沢、大石沢、岩井沢だが、特に角楢沢の三本の沢がおもしろい。右岸側では鍋倉沢、檜岩屋沢、小白布沢がおもしろそうだ。

 徳網から河口までの間で朝日連峰側から入る支流として石滝川、金目川、横川、女川があるが、それ以外の支流では折戸川上流、樋ノ沢川、樋ノ沢地区の支沢、玉川口近くの大沢川、下ノ沢、柳沢、ソンナ沢、荒沢川、湯蔵川がある。